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「中毒疹」とは何か

Last Updated on 2020年8月6日 by 院長

「中毒疹」という病名をご存じでしょうか?

「”中毒疹” 診断のロジックと治療」という書籍(マンスリーブック・デルマという月刊誌:私も蕁麻疹で編集企画をさせて頂いたことがあります)が先日発行されました。編者は新潟大学皮膚科教授の阿部理一郎先生です。重症薬疹が専門の先生で、大変ユニークで面白いお仕事をされています。

編者とタイトルに惹かれて購入しましたが、非常に面白かったので感じたことを記します。特に、慶応大学の高橋勇人先生の章に感銘を受けました。共感するところも多かったです。

欧米では中毒疹=toxicodermaという病名はまず使われないそうですね。知りませんでした。我々日本人が「中毒疹」と表現する発疹のことは、erythema multiforme(多形紅斑)や、maculopapular exanthema(日本語なら「斑状丘疹状発疹」でしょうか)と言うそうです。

一方、日本の皮膚科では「中毒疹」という病名はよく使います。この本を読んで、自分がどのような状態を中毒疹と呼んでいるのかと考えると、大抵、maculopapular rash(斑状丘疹状の紅斑)を呈していて、非特異的な皮疹の時で、何らかのウイルス感染症や薬剤を原因として(中毒?)思い浮かべる時です。特定の疾患をすぐ想起させるような特徴のある皮疹なら、中毒疹とは診断しないと思います。言われてみると、あくまで暫定的な病名ですね。

特に誘因がないか、軽い風邪の症状くらいしかなく、受診時は発熱などの全身症状もなく、抗ヒスタミン薬とステロイド外用薬で様子をみていたら1週間くらいで消失してしまうようなときは、残念ながら暫定的な「中毒疹」の診断のままになるでしょう。(皮膚科クリニックではこれが一番多そうです)。

臨床症状から、麻疹(はしか)、風疹(三日ばしか)、伝染性単核球症、伝染性紅斑(リンゴ病)などの代表的なウイルス性急性発疹症が疑われる場合や、あとでこれらのウイルス抗体価が上昇していることが確認できた場合は、最終的にその病名になるでしょう。

そして皮疹が良くならない場合、

実は新たに内服薬が始まってから好酸球増多を伴って皮疹が出現していて、その薬剤の中止で改善する場合は、丘疹紅斑型「薬疹」の病名になるでしょう。

皮膚生検をして、湿疹型の反応(海綿状態など)がある場合、接触皮膚炎(全身性接触皮膚炎を含む)の可能性を考えて、パッチテスト(身の回りのもの、金属、ジャパニーズベースラインシリーズなど)をする価値はありそうです。

そして湿疹や中毒疹に見えて皮膚の悪性リンパ腫(菌状息肉症)と言うこともあり得ます。

というような感じで、「中毒疹」はあくまで暫定的な病名であるということを意識して、その診断のままに放置せずできるだけ病態を明らかにする、という態度が重要なのではないか、と感じました。