伝染性膿痂疹
Last Updated on 2019年11月21日 by 院長
伝染性膿痂疹は、俗に「とびひ」とも呼ばれる表在性皮膚細菌感染症です。
皮膚に水疱、びらん、痂皮(かさぶた)をつくって、浸出液、水疱内容物などの接触により容易に感染し、病変が広がっていきます。
水疱性膿痂疹(黄色ブドウ球菌によるもの)と痂皮性膿痂疹(溶血性連鎖球菌によるもの)に分けられます。黄色ブドウ球菌によるものでは、菌から産生される表皮剥奪毒素(exfoliative toxin: ET)が表皮の構造上重要なデスモグレイン1という分子を融解することで表皮内水疱を形成します。
溶血性連鎖球菌によるものは、小膿疱、紅斑とともに厚い痂皮を形成し、発赤・腫脹が著明で、疼痛を伴います。溶連菌の産生する腎毒素により、腎障害が起こることがあります。
水疱性膿痂疹は主に乳幼児に生じ、虫刺されやあせも、アトピー性皮膚炎などの部位を搔破して二次感染を起こし、膿痂疹へ進展します。成人には少ないです。一方、痂皮性膿痂疹は成人にも生じ、また季節によらないとされています。
治療は、抗菌薬の内服、外用です。ごく軽症で限局性の病変に見えても、抗菌薬を全身投与しないと治癒しない場合が多いため、ほとんどの場合で内服薬を処方します。水疱性膿痂疹の場合、セフェム系薬剤(セフジニルなど)が第一選択になります。ただ最近はMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の感染例が増えており、可能であれば初回から細菌培養同定および感受性検査を行って、必要に応じて感受性のある抗菌薬に変更するのが良いです。アトピー性皮膚炎を合併していたり、かゆみが強く搔破したりする例では、抗ヒスタミン薬の内服を処方します。外用薬は、フシジン酸ナトリウム軟膏、ナジフロキサシン軟膏などを用います。痂皮性膿痂疹の場合は、アモキシペニシリンなどのペニシリン系薬剤が第一選択になります。外用薬は水疱性膿痂疹と同じです。
毎日シャワーを浴びて、石鹸を洗って皮膚を清潔な状態にします。とびひはかゆみが強く、搔破により病変が広がっていきますので、爪を短く切るよう指導します。また、小児では鼻の下から膿痂疹が拡大する例があり、鼻前庭は黄色ブドウ球菌などの細菌の温床なので、鼻を触らせないようにします。
病変があまり広範囲でなく、全身症状がなければ学校を休ませる必要はありませんが、他の児童に伝染させないためには、病変部をしっかりとガーゼで被覆しておく必要があります。またプールに関しては、プールの水を介して伝染することはないですが、直接の接触や、タオルやビート板を介した間接接触でも感染する可能性があるため、治るまでは禁止します(日本臨床皮膚科医会・日本小児皮膚科学会の統一見解)。
月間基金 第57巻第7号2016年 医学のはなし「伝染性膿痂疹」に寄稿したものを許可を得て転載