デュピルマブ(デュピクセント®)

Last Updated on 2023年12月29日 by 院長

デュピルマブ(デュピクセント®)は、アトピー性皮膚炎の病態で重要なTh2(タイプ2)炎症の主たるサイトカインである、IL-4の受容体(IL-4Rα鎖)に対するモノクローナル抗体です。

デュピクセント作用機序

少し前は、アトピー性皮膚炎は皮膚バリア機能不全が原因で(例えば、フィラグリンの遺伝子異常)、Th2炎症はその結果である(Outside-In;外から内)と言われていましたが、皮膚にTh2炎症が起こることで、皮膚バリア機能が低下する(例えば、フィラグリンの発現が低下する)(Inside-Out:内から外)ことが分かってきました。つまりTh2炎症を抑えると、皮膚バリア機能も回復することになります。

デュピルマブを開始すると、早い時期から痒みが治まってくるのが特長で、すごく楽になった、と言われます。引き続いてだんだんと皮膚の状態も良くなってくることが多いです。副作用は結膜炎が多いですが、重篤な副作用はあまりありません。大変良い薬なのですが、アトピー性皮膚炎患者さんであれば誰でも使えるか、といえばそうではありません。

施設要件」、「前治療要件」、「疾患活動性の状況」という制限があります。

施設要件は、担当医が皮膚科専門医アレルギー専門医であれば問題ありません。

前治療要件が重要で、

ア 成人アトピー性皮膚炎患者であって、アトピー性皮膚炎ガイドラインで重症度に応じて推奨されるステロイド外用剤(ストロングクラス以上)やカルシニューリン阻害外用薬による適切な治療を直近の6ヶ月以上行っている

イ 成人アトピー性皮膚炎患者であって、ステロイド外用剤やカルシニューリン阻害外用薬に対する過敏症、顕著な局所副作用若しくは全身性副作用により、これらの抗炎症外用薬のみによる治療の継続が困難

とあります。つまり、適切なステロイドの外用をしていてもコントロール不良な場合や、副作用でこれ以上ステロイド外用剤が使えない場合に限るということです。ステロイドを塗るのが怖いから、ステロイドを塗るのが嫌だから、または面倒くさいから、と言うような理由では駄目ですよ、ということです。

疾患活動性の状況というのは、軽症の方は駄目ですよ、ということです。

従って、当院でデュピクセント®を新規に投与する場合は、「成人アトピー性皮膚炎患者」さんで、「中等症以上」であることはもちろんですが、直近の6ヶ月の治療内容がすべて確認できること(少なくともお薬手帳があること)、適切なステロイド外用治療を受けていることが客観的に十分判断できること、が必須です(通院間隔が長すぎる方、適切な強さと量のステロイド外用剤を使っていない方など、これに当てはまらない状況はいろいろあります)。まずは現在通院されている皮膚科クリニックでご相談された方が良いケースも多くあります。

高額な薬剤ですが、2020年4月1日からの薬価改定で約20%減額になっています。新薬価は1本66,356円です。3割負担で、最初の月に2回投与したとすると、最初の月が6万円くらい、維持期に入ると4万円弱が毎月かかることになります。

投与スケジュールは下のようになります。

デュピクセント投与スケジュール

2019年5月から自己注射が可能になりました。ただし、最初の2回は医療機関を受診して注射・指導を受ける必要があります。

それ以降(最短で4週後から)は、薬局で処方を受け取って、自宅で注射することができます。収入にもよりますが、高額療養費制度が利用できますので、自己負担が軽減される可能性があります。

アトピー性皮膚炎に関しては、このデュピルマブ以降も新薬が次々発売される予定で、ステロイド外用剤以外のオプションが増えるのは大変良いことだと思います。

デュピクセント®をいつまで続けるか?ということについては、明確な基準はありません。一応、アトピー性皮膚炎が寛解に至って、6ヶ月維持できたら中止を考慮しても良い、ということになっているようなので、投与開始から約1年くらいになるかと思います。ただし、一旦中止すると、中和抗体(お薬を中和する自己抗体)が体の中にできてしまう可能性があり、またアトピー性皮膚炎が悪くなって再投与、という時に前回ほど効かないかもしれない、というリスクはあります。ただし、今はアドドラーザ®というもう一つのアレルギー性炎症で重要なサイトカインであるIL-13に対する抗体製剤が発売されましたので、次の治療手段がないわけではないです。

デュピクセント剤形

 

2020年11月25日にペン型(オートインジェクター)の製剤が発売されました。自己注射にはこちらの方が簡単だと思います。順次切り替えになります。