新型コロナウイルス

新型コロナウイルス感染患者の皮膚症状(文献紹介)

Last Updated on 2020年5月11日 by 院長

先日、日本臨床皮膚科医会から、新型コロナウイルス感染患者の皮膚症状について、文献の紹介がありました。

Galván Casas C, et al.

Classification of the cutaneous manifestations of COVID-19: a rapid prospective nationwide consensus study in Spain with 375 cases. (COVID-19患者の皮膚症状の分類:速報的、スペイン全国、前向きコンセンサス研究 375例)

https://doi.org/10.1111/bjd.19163

British Journal of Dermatologyという、皮膚科で最も権威のある雑誌の1つに受理されています。Open accessなので、誰でも文献をみることができます(皮膚の写真もみれます)。普通、開業医はopen accessでないと英文の文献をみることはできません。読んだ内容を紹介しようと思います。

この文献ではないですが、COVID-19患者の約20%が皮膚症状を有していたとの報告があるそうです。

さて、この文献では、スペインでアウトブレイクが起こっている時期(現在もでしょうか、、)の2週間で、皮膚症状のある375例が、前向きに、スペインの皮膚科医によって、収集・解析されています。これらの症例の死亡率は1.9%であったとのことです(生死の境にあるような重症例は、研究の同意が得られないので数に入っておらず、見かけ上死亡率が下がっている可能性があるとのこと)。また、全例がウイルス学的に確定診断されているわけではない(ただし確定診断例だけに絞っても結果はほぼ同じとのこと)。

著者らは、このCOVID-19患者の皮膚症状を、5つの病型に分類しています。それぞれの(%)は、皮膚症状のある375例の中での割合です(全部合わせると100%)。COVID-19患者全体の中で皮膚症状のある患者の割合というのは、この研究ではわかりません。

1.手足の水疱や膿疱を伴う紅斑(“偽の”しもやけ)(19%)非対称性のことが多く、若年で軽症者に多い。またCOVID-19の他の症状が出た後に遅れて生じることが多い。

2.他の水疱性病変(9%)これまで水痘様(chicken pox-like)皮疹と呼ばれていたもの。ただし、水痘のような多様性のある皮疹ではなく、大きさなどが単一の形態をとる。COVID-19の他の症状に先行して起こることが多い。

3.蕁麻疹様皮疹(19%)躯幹中心、または全身に生じる。

4.斑状丘疹状皮疹(47%)毛孔一致性で落屑を伴う例、ジベルばら色粃糠疹のように見える例、手背に漿液性丘疹の集蔟を伴う例、手背に多形紅斑様の皮疹を伴う例などいろいろ。

3と4はどちらもCOVID-19の他の症状と一致して起こる。

5.網状皮斑または壊死(6%)高齢、重症者に多い(死亡率10%)。

 

ここからはほぼ私見です。あしからず。

3と4はウイルス感染によるじんましんや中毒疹のような感じで、とうていCOVID-19に特異的にとらえることは困難です。陽性患者と濃厚接触があった、という場合は別にして。

5は肺炎があるような重症例に生じるので、皮膚症状自体はCOVID-19の診断にはあまり役立たないかもしれません。ただし、老人ホームなどで、発熱があり、このような皮疹が出ている患者が複数いる、ということになれば、集団感染の可能性を疑う必要があるでしょう。

COVID-19の診断に役に立つ可能性があるのは、無症候感染例・軽症例に起こりやすい皮膚症状や、他の症状(発熱や肺炎)が出現する前に起こってくる皮膚症状、というように考えると、

1のしもやけ様の皮疹(それも非対称)

2の水疱性皮疹(水痘に比べて一様)

ということになるのではないかと思いますが、これだけではたして保健所にPCRをやって貰えるか、というと、現状はおそらく無理なのではと思います。

ただし、もしかしたらと感染を疑うヒントになるかもしれません。これからは、これらを念頭に置きながら診療しようと思います。